おれは身体は丈夫だし

       風邪なんてもんにもなったことがねェ

       どんな感じがするのかも知らねェし

       どの位苦しいかも分かんねェ



       けど、最近なんか凄ェツライ

       やる気が起きねェし、気が付けば溜息ばっか出てくるしよ

       なんか心臓らへんにもやが掛かったみてェなんだ

       これが風邪なのか?

       それともすんげェ病気かもしんねェ

 
















      * 恋の病、恋煩い *




















      いつものように来る朝。

      いつものようにサンジの朝食の匂いが漂って。

      そしていつものようにクルーが起き出し、キッチンに向かう頃。

      毎日変わらない朝の情景。



      ただ一つのことを除いては。














      「ウソップ〜・・・おれって変か?」

      「ぁあ?何言ってんだよ、ルフィ」

      ウソップは重い瞼を擦りながらルフィの言葉に少し違和感を感じていた。

      いつもなら、第一声が「メシぃ〜〜〜〜っ!!!」のルフィが、

      むくりとハンモックから起きて、今日始めに出てきたのがこの言葉だ。


      「っていうかよ、お前が変だってのは百も承知だっつの。

       あ、・・・いやでも、今となっちゃぁ変なルフィが普通のルフィだから、

       普通のルフィが変なわけで・・・・???」

      ぶつぶつと言いながらウソップの頭には疑問符が浮かんでいる。

      「ぁあ〜、だからよ、何がどう変なんだよ!?」

      自分で考えてもルフィの頭の中が分かるわけでもなく、

      ウソップは少々声を荒げて聞き返しながら振り返った。

      「おっ、お前、ルフィ!!なんだその顔!?」

      ウソップが眠気もぶっ飛びそうな大声を出す。

      「ん〜〜〜〜〜?なんだよぉ」

      「目の下に隈があんじゃねェか!!どうしたんだよ!?

       お前らしくもねェ!!一睡も寝てないのか!?」

      「目ェ瞑ってたんだけどよ、夢見なかったなぁ・・・。」

      「寝てねぇってことじゃねェかっ!!」

      「そうなのか??よく分かるなぁ、ウソップ」

      「まぁ夢見ねェ日だってあるだろうがお前の場合その顔で分かるわっ!!

       ・・・んで?どうしたんだよ?」

      「が・・・」

      「っ!?」

      ウソップは思っても見ない単語に驚きの声を上げる。


      一体がどうなればルフィが寝不足になるのだろうか??


      「がお前に何かしたってのか?」

      「ん〜〜〜〜、よく分かんねェ」

      「・・・はぁ。・・・ルフィ」

      少し呆れた目を船長に向けるとウソップは立ち上がって

      「ぅしっ、おらルフィ、立てって。朝飯食いに行こうぜ。

       腹いっぱいになったら悩みも吹っ飛ぶだろっ!」

      そう言ってルフィの腕を引っ張って立たせた。










      ギィっとキッチンのドアを開けると、サンジとが楽しそうに話している姿がまず目に入った。

      ウソップの肩にもたれながら、その光景を見たルフィはピクリと反応する。


      ニコニコ笑っていたサンジが、ドアの方に顔を向け遅刻者二名を見ると表情がくるりと変わり

      「てめェら!!遅ェぞ!!折角の料理が冷めんだろうがっ!!」

      と怒鳴る。

      「いやぁ〜悪ぃ悪ぃ。ルフィが寝不足だなんて言うからよぉ」

      「はぁ?ルフィがなんで寝不足なんかになるんだよ?」

      「それがおれにもよく分かんねェんだ。

       おい、ルフィ!シャキンとしろって」

      ペシペシっとウソップがルフィの頭を軽く叩く。

      すると急にルフィがスクっと立って、ウソップの手を払いのける。


      そして一言。


      「おれ、メシいらねェ」


      その場に居た誰もがピタっと動きを止める。


      それだけ言うとルフィはキッチンを出て行ってしまった。










      「・・・・・・ど・・・・っ、どぉいうことぉっ!?」

      ナミの一声でそれぞれの時間が再び動き出した。

      「マジでど〜しちまったんだ、アイツ〜〜!!?」

      「・・・・・・」

      「病気かしら?」

      「病気っ!?い、医者ぁあああ〜〜ああっ!!!」

      「って、お前だろ。

       あ、ちゃん、どこ行くんだい?」

      「ん、ちょっとルフィの様子見てくる」

      「でも今アイツ、なんか機嫌悪いぜ?」

      「大丈夫。あ、じゃぁこのパン持ってくね。

       ルフィ、お腹空くかもしれないからっ」



      そんなの後姿を見ながらウソップは一人呟く。

      「もしかしてルフィのやつ・・・・」





























       ルフィどうしちゃったんだろう・・・?




      最近ルフィの様子がおかしい、とは思っていた。

      遊びの誘いも、演奏の催促も最近じゃ全くない。

      そのことには少なからずショックを受けていた。

      自分が嫌われたのだろうかと思うと、とても怖く感じた。

      死や敵が迫ったときなどとはまた違った恐怖。


      けど、それは多分違う。

      自惚れとかそういうことではなく、

      同業者が乗り込んできたときも戦闘力のないのところへ

      ルフィは真っ先にすっ飛んで来てくれたのだ。

      少なくとも仲間とはまだ思っていてくれる。



      じゃあなんで急にこんな距離をとったのだろう?

      はこのことについてずっと悩んでいた。





      はルフィに恋心が芽生えていたから・・・




























       なんだ?

       なんなんだ??

       この気持ちは

       サンジもも大切なおれの仲間なのに

       その大事な仲間が仲良くしてんのは船長のおれにとっても

       すげェ嬉しいことなのに・・・

       なんか、

       なんか・・・・

 
       すげェ腹が立つ











      その時、


      「ルフィっ!!」



      後からルフィを悩ます張本人の声が聞こえた。

























      メリーに座っているルフィに呼びかけた

      ルフィの身体がの声に反応する。

      けど、こちらを振り向かない。

      の不安がますます募っていく。



       あたし、なんか怒らせるようなことした?



      「ちょっとルフィ!返事くらいしてよっ」

      不安からか、は声を荒げる。

      そしてルフィの真後ろまで行くと軽く服を引っ張った。

      「ねぇ、ルフィ・・・あたし何かした?」



 

       分からないの

       全然ルフィが分からない


       どうして遊びの誘いに来なくなったの?

       どうして演奏の催促に来なくなったの?

       どうして、あたしに笑いかけてくれなくなったの・・・?


       怒ってるならそう言って?

       何も言ってくれないのってツライよ・・・





      「ルフィ・・・」

      「別に、お前がなんかしたとかじゃねェんだ」

      急にルフィは口を開いく。

      「え・・・?」

      久々にこんなに近くでルフィの声が聞こえることに、

      想像以上に嬉しいと感じてしまう。



      に背を向けたままルフィは口を開く。

      「よく分かんねェんだよなぁ、おれも」

      「・・・?」

      「がサンジと話してるとこ、見たくねェんだ。

       ・・・・・いや、別にいいんだけどよ、話してたって。むしろその方がいい。

       つか、誰ともしゃべんな」










       え?



       これって、なんか・・・




 





      「ルフィ・・・言ってることが滅茶苦茶」






       でも、言いたいことは分かる。

       なんとなくだけど・・・

       つまりルフィは、


















      「あたしのことが、好き・・・?」







      ハッと気付いたときにはもう言葉にした後だった。

      ルフィに問いかけたモノじゃなくて、

      自分の中で考えていたことがポロっと口から出てしまっていた。



      ルフィは急に振り向いて、ポカンとしているに真顔で一言。




      「そおゆうことだっ!!」





      なぜか踏ん反り返っているルフィには慌てて言い返す。

      「仲間とか、友達とか、あたしが言ってるのはそういう「スキ」じゃないのよっ?」

      「そんくれェおれにだって分かる。」

      ほんとかよ・と思いながらも、

      いつになく真剣なルフィには改めてその言葉の意味に顔を赤らめる。

      その反応にルフィは嬉しそうに笑いながらに麦藁帽子をポスっと被せた。

      「わっ!?」

      「ししっ、はかわいいなぁっ」

      「なっ、ルフィっ・・・」

      そしてそのまま、ルフィは軽くのおでこに口付ける。

      「ぁっ、」



      そしてルフィの唇は次に瞼、鼻筋、頬へと移っていく。


      触れるだけのキス。


      けれど、とても愛しそうに、優しく優しくキスを落としていく。

      時々かかる熱い吐息には少しの興奮と軽い眩暈を感じた。




 


       どうしよう・・・

 
       なんか、ルフィがすごく愛しくいよ・・・っ
 
 

 

 



      されるがままになっていたは軽く目を閉じる。

      ルフィがの唇に触れる、その時、距離を詰めたのはの方だった。





      ルフィは少し驚いたような顔をしたけど、



      すぐ嬉しそうに笑ってをきつく抱き締めた。






















      「、お前顔赤いから暫くコレ被って顔隠しとけっ」

      んな顔してると、サンジが本気になっちまう

      そうルフィがぼやく。

      「そんな、何言って・・・」

      は真っ赤な顔のまま笑って抗議した。

      「お前、今の自分のかわいさ分かってねェから言えるんだ」

      そう言ってルフィはの頭に乗っかっているその帽子のふさを少し勢いをつけて下へ向かせた。

      「ぅわっ!?」

      今の言葉には更に顔を赤くさせる。

 

 


 






       どんなに愛の言葉を並べられても、

       くさいセリフを本気にしちゃうくらい囁かれても




       ルフィの飾りのないストレートな言葉にはきっと敵わない


 
       少なくとも、あたしはそう・・・

 















      そして急にルフィは勢いよくメリーから降りるとの手をしっかりと掴み、

      「腹減ったぁああああああ〜〜〜っ!!!!

       サンジィーーっ、メシぃ〜〜〜〜っ!!!」

      そう言ってキッチン目掛けてダッシュする。


      「わぁっ!!!?ちょっ、ルフィ転ぶっ!!手ぇ離してっ!!」

      「いやだっ。ぜってェ離してやんねェっ!!」

      そう言ってルフィは、にししっと笑う。

      「もうっ!ルフィはいっつも・・・」
























      いつものように来る朝。

      いつものようにサンジの朝食の匂いが漂って。

      いつものような二人の会話。

      そして、いつものようにルフィが笑う。








      毎日変わらない朝の情景。
















      ただ一つのことを除いては・・・































         END






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       これは未発達の心の続編みたいなものです。

       未発達の心がここまできましたよ。