昨日は、そのまま泣きながらタクシーで帰った。

今思うと、恥じ以外の何者でもないけど、でもスッキリした。


ロロノアくんのお陰で。










*** 反撃 *** 後編











朝、二日酔いの頭痛と共に目覚めて携帯を覗くとメールや着信が溜まっていた。



「・・・サンジ」

見なくても彼だと分かった。

一人の部屋で呟く愛しい人の名前。


そう。

まだやっぱり、彼は愛しい人。







ベットから身を起こしながらメールをチェックすると、

「今日仕事終わってから、会って話しがしたい」

こまめに絵文字を使うサンジにしては珍しく淡々としたメールだった。





・・・真面目に話そうと思ってんのかな。

喧嘩の後だし・・・。





妙な胸騒ぎがしながらも、メールを打ち返す。

「遅くなるかもしれないから私がサンジの家に行く。」


















さん!昨日のダメになった資料、もう仕上がってるわよね!?」

「あ、はいっ。あとはサインを・・・」

「ちょっと貸して」

「は、はい」


どーも苦手だ。この人。

なにかと私に目を付けるんだから・・・・。

てゆーか何でアナタに見せなきゃいけないのよ。

こっちの担当でもないのに。




「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」



ようやく顔を上げた上司に、自然と身構えてしまう

すると、予想だにしない言葉が耳に届いた。


「・・・・ふぅん。なに、やれば出来るじゃない」

「へ?」

「ミス1個もなしよ。珍しいわね。」

そう言って少し微笑むと、

苦手な女上司 佐々木さん(37歳独身)は自分のデスクに戻っていった。










分からないものだ。

人間って。



昨日のロロノアくんも、今日の佐々木さんも。

ちゃんと向き合わなければ分からないことって、きっともっといっぱいある。












「先輩」

「ん?」

缶コーヒー片手に昨日のようにゾロが背後に立っていた。

「お昼、どうっすか?この券2人までなんで」

そう言って差し出した券は、昨日オープンしたばかりの駅前のカフェのものだ。

「あっ、パスタ今日まで半額!?うそ!行く!」

パスタに目がないはすぐさま立ち上がって財布を手に取る。

「旨いかわかんないっすけど」

「いいって全然!」



佐々木さんの言葉。

パスタは半額。

サンジとも仲直りできるかもだし。

なんか今日は良い日だ!


ニコニコと笑うに、ゾロもつられて笑った。











「昨日」

「ん?」

横断歩道の赤信号を恨めしそうに見つめるの横で、

向かい側で同じように信号が色を変えるのを待ち構える人々を見ながら、ゾロが口を開いた。

「結構飲んでたけど」

「ああ、二日酔い?ウコンの力飲んだからもうバッチリ!ロロノアくんは?」

「昨日のなんて飲んだうちに入んないっすよ」

「えー?マヂで!?私より飲んでたのに」

凄いねー とケラケラ笑うと、不意に視線を感じた。

振り向く間もなく、ゾロが先に口を開く。

「昨日とは全然違いますね」

「へ?なにが?」

「なんか、雰囲気」

「あっ、昨日のアレは忘れてね!あの時はごめんっ。一回泣いたら止まんなくなっちゃって」

「あー、別に、構わないっすよ、おれは」

「でも、ロロノアくんのお陰で、なんかスッキリしちゃって。今日はなんか気分良いの!」

ゾロを見上げて笑うと、以外にもゾロが柔らかく笑い返してくれたので、

なんだか少し気恥ずかしくて、は下を向いてしまった。











お店に入ってメニューを開くと、ゾロがおもむろに口を開く。

「で、どーするんすか?」

質問の内容が理解できずに、キョトンとゾロの方に顔を向ける。

「なにが?」

「昨日あんだけ愚痴ってたけど、より戻すんすか?」

「ああ・・・・」

何だかゾロの顔を見れなくて、自然と視線をメニューに戻す。

「やっぱさ、なんか、昨日思いっきり泣いて、ほんとスッキリしちゃって」

「・・・・・・」

「スッキリした頭で考えたら、・・・・やっぱり」

「・・・・まだ好きなんすね」

言葉には出さず、コクンと頷く。

「やっぱバカかな、私」

へへっとはにかんで、レモン水を取ってゾロを見ると、

ゾロはと深く息をついて、

「そんなにイイのかよ、その男が」

と独り言のように呟いた。




と、その時・・・





「ご注文はお決まりでしょうか?」

のテーブルの前で一人のウェイターが立ち止まる。

あの、まだです とが作り笑いを向けようとする前に、その男がすぐに言葉を続けた。

「いや、食事よりまず・・・・」

「・・・!」

「話し合い、だな」

「・・・サンジっ!?」



えっ!サンジここで働いてたの!?

って、あれ私服着てるし!

え、え、じゃあ何?どうしたのっ!?



聞きたい言葉は頭の中でぐるぐる渦巻いていたけど、

それも全て、サンジの表情を見るとすぐに真っ白に消えてしまった。




「サンジ、怒ってる・・・の?」









初めて見る、サンジの顔。

背中を伝う冷たい汗の感覚。

心臓がやけに早く動いて、それとは反対に目は見開いたまま動けずにいる。



「怒ってるって?」

サンジは静かに視線を下にやりながら正した姿勢を崩す。

「まぁ、あんだけお前にイヤな思いさせたおれがこんなことで怒るなんてバカげてるかもしれないけどよ、

 ・・・ああ、でも今分かったよ。こんな不快な思いはないって」

「なに言って・・・」

その瞬間全てを悟って、それでいて黙りこくるゾロの胸ぐらをサンジは勢いよく掴んだ。

勢いよくイスが倒れ、一瞬何が起きたのか理解できないの目の前で

サンジは相手に向かって今にも殴り掛かりそうな体制だ。

「や、やめてよ!サンジ!!」

の悲痛な叫びもサンジには届かずに、彼の拳は鈍い音と共にゾロを殴り飛ばした。

「サンジっ!!」

騒ぎとともに他の客たちは驚きながらも興味深々にその光景を観覧し、反対に逃げ腰の者もいる中、

中からオーナーらしき人が困り果てた表情で出てきた。


「あのお客様・・・」

「おいテメェ」

思いっきりオーナー無視でサンジはツカツカとゾロの方に近づいていく。

ゾロといえば、切れた唇の端の血を手の甲で拭きながら、鋭い目つきでサンジを睨み付ける。

「だめ、お願いやめてよサンジ!ロロノアくんは関係ないから!」

袖を捲り上げてあらわになったサンジの腕に、必死にしがみつくようにの細い指が掴む。

止まらないサンジの横で引きずられるように歩きながら、必死で言い聞かせる。

「ねぇ!暴力はやめてっ!ロロノアくんとは会社の同僚なのっ。良い人なのっ。乱暴しないで!」

ピクリとサンジが動きを止め、

「ただの同僚と、おれに隠れてこそこそ会ったりするのかよ」

「こそこそなんてしてないわよ!」

「してんじゃねぇかっ!」

「・・・っ!」

見たこともない聞いたこともない彼の表情に、彼の声に、は怯えという感情が芽生える。

それを悟ったのか、サンジは少し伐の悪そうな顔をして、さっきより声を抑え目にして口を開く。

「昨日の夜、丁度コイツとが一緒のとこを見たんだよ」

「それは・・・」

「随分と打ち解けたご様子だったじゃねぇか」

「それは違・・・」

「何がどう違うってんだよ」

「ロロノアくんは私を、ただ励まそうとしてくれただけでっ」

「それでお前はアイツの夜の誘いに乗ったわけだ!」

「そんな言い方しないでよっ。ちゃんと聞いてよサンジ!

 ロロノアくんはそんな人じゃないのっ。優しい人なのっ」

「優しけりゃ誰にでも付いてくのかよっ!」

「だから・・・っ」














だから・・・・


違うってば。








悔しい。



だったらアンタのしてることは何なのよ。

私がどれほど我慢してたか知らないで、どれほど寂しかったか知らないで。


もしそれを知っているのだとしたら尚更タチが悪い。








なんなの。


私はサンジのなんなの。













悔しい・・・・っ。






キライ

キライ

キライ



大キライ

















何がどう1番悔しいって、


あなたが怖い程感情を剥き出しにしたこと。


それが、こんなにも嬉しいと感じてしまってる自分自身よ。












ボロボロと、の滑らかな頬を雫がすべり落ちていく。


「・・・・・うぅっ」


喉がひくついて、言葉が言葉として出てこない。

こんなにも我慢をしていたのに。

この人の前で泣かないって。






ねぇ、あなたは優しいヒトだから。



だから泣きたくなかった。



ねぇ、あなたはやっぱり私の・・・

















「・・・・・




初めてかもしれない。


おれがの涙を見たのは。









おれが泣かしてるんだ。


それなのに、罪悪感は常に胸に渦巻いてるのに、






ソレがこんなにも嬉しくて、こんなにも愛しいなんて。



















サンジの腕が完全に重力に身を任せ、怒りの表情がウソみたいに消えていた。

「・・・・ごめんな。こんなヤツで」

へへっと少し笑って、諦めたようにサンジが呟く。

「でも・・・」

そして、今までみたいにご機嫌をとるように軽い口調でもなく、まどろっこしい表現でもなく、

そしてそれら以上に力のある声で。



「お前が、好きなんだ」



笑っちゃうくらいに真面目な顔で、

の目を捕らえたサンジの瞳はどんな海の色にも勝る透き通るようなブルーで、







ああだから、綺麗で泣けてくるのよ。


ただそれだけ。












「ばか!」

涙でぐちゃぐちゃの顔で、はサンジの肩に顔を擦り付けるように倒れこんだ。







その場に居た客たちは好き勝手なことを言いながら、

話のネタだと思わんばかりに、その場を動かず成り行きを見守っていた。








「ばか・・・」

「ごめん

「ばかまゆ毛」

「ごめん・・・」

「まゆ毛」

「単品で言うなよ」

もたれ掛かるの華奢な身体が小刻みに震えて、笑っているんだと分かった。








「先輩」


背後からの声に反応する間もなく不意に触れ合っていた所に空気が入り、

引き剥がされたの身体はゾロの腕に収まる。

「ろろ・・・」

「あ!?なにす・・・」



サンジが言い終わらないうちにの顔の横辺りにヒュっと空を切る音。

そしてその次に今日二度目のあの痛々しい音が。


「っきゃあ!サンジ!!」

「ちょっと何やってんすかあんたーーーー!!」

オーナーの悲痛なツッコミはスルーされ、

サンジは痛そうに顔を歪めながら、すぐに立ち上がった。


の身体はゾロから開放されサンジの元へと走る。


「大丈夫サンジ!?」


今にも再び乱闘が始まらんばかりの雰囲気で、先に口を開いたのはゾロの方だった。




「おれの憧れの先輩を泣かした。その分っすよ。今のは」

意地悪っぽく笑って、

「先輩、また彼氏さんに泣かされたら、一緒に酒飲みましょうね」

そう言って、呆気にとられているサンジとの横を通り過ぎて、一人店から出て行ってしまった。



「あんな顔、するんだ・・・」

子供っぽい、あんな意地悪な笑顔。

案外、彼はかわいい性格なのかもしれない。




そんなことを人事のように呟きながら、

そんなことさせるかぁあああーーっ!!!とゾロを追いかけようとするサンジを見て、

はおかしそうに笑った。





サンジも意外と・・・・・
















そうだね。

分かっていきたいわ。



アナタのことも。

アナタではない他の誰かさんのことも。




でも私のことは、やっぱりアナタに1番知ってほしいの。









これくらいのわがままは許してもらえるはずよ。




ね?サンジくん!























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反撃って、結局ゾロにされてますね。

そんなサンジさんもすき!

結局サンディってへたれさん。

もうなんかいろいろとすみません。

ぐだぐだです。