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あーもう。

我慢をすればいずれ限界に辿り着くのね、やっぱり。



さらりと出る甘い台詞なんて聞きたくないの。

お詫びの料理も、ちょっと惜しいけど遠慮しておくわ。

煙草だって、私がいない方が気兼ねなく吸えるでしょう?

ね!サンジくん?










*** 反撃 *** 前編










「サンジ、もう顔上げてよ。もういいから、ほんと」

「許してくれんのっ?」

「そーゆー意味じゃないし」

「じゃあ おれどうすりゃいいのよ?」

「どーもしなくていいんだけど」

「なぁーゴメンって。ほんと、マジで。」



派手な頭を必死で下げて許しを請う男に、これまでにない程の冷たい視線を向ける吹雪。

その凍りつく視線に合わせると、3秒もしないうちにまたペコリと頭を下げる。

まったく。この男にプライドはないのか。

開きなおられるのもムカつくけど。



「サンジ・・・・私たち、やっぱ合わなかったんだって」

「そんなことない」

「価値観が違いすぎるよ」

「そんなことねェって」

「あるから言ってるの」

「おれは吹雪が好きだ。お前もおれのこと好きだろ?だったら問題ないって」

「もう好きじゃない」

「・・・・好きなくせに」

「嫌い」

吹雪さんは嘘がウソップよりヘタクソですね~」

「嫌い。大嫌い。顔も見たくない。

 今後一切関わり合いは持ちたくない男No.1に選ばれたよ、よかったね~」

「酔ってます?」

「素面です」




もうコチラをチラリとも見ない吹雪に、サンジは深く溜め息をつく。

こんなに頑なに聞く耳持たない吹雪は初めてだ。

いや、そりゃおれが悪いんだけど・・・。


今は何を言っても無駄なようだ。

相手の神経逆撫でするだけで、雰囲気は重くなる一方。

サンジは諦めたように口を開く。

「今日は、もう帰るわ」

ゆっくりと、玄関に向かう。

ドアを開ける前に1度振り返る。

吹雪との視線はもう合わない。

「また電話する」

そう言ってスッキリしないまま、サンジは吹雪のアパートを出た。








サンジの前では泣かないようにしていた。

あんな無類の女好きでも、浮気性でも、

彼は凄く優しい人だから。



この部屋に一人残され、吹雪は一滴の涙を零した。
















サンジと付き合い始めて、2年は経つかな。

この2年の間、そりゃ平坦な道のりじゃなかった。

その理由の大半を占めるのは、やはりサンジの浮気。


知っている限りでは、相手の女は毎回違って、それはつまり、

少なくとも本命は自分だということになる。

それでも、サンジに問い詰めれば、友達だと言われ、

異性の友達にも腰に手を回すのかと反論すれば、相手は言葉を濁す。

こんなやりとりが何回も繰り返されれば、怒りだって爆発してもおかしくないでしょ?



それでも悔しいのは、そんな彼を嫌いになれないってこと。

会うたびに惹かれていくのは自分でも嫌という程分かる。


サンジにとって私は、そうじゃないんだなぁと思うと、寂しいし、なにより悔しい!

いっそ、浮気でもしてやろうかと意気込んでみたりするけど、

私にはそんな器用なこと出来ないし、やっぱ何より動機が動機なだけに、相手の人に悪い。


やっぱり・・・・、別れた方が楽なのかもしれない。

















サンジは吹雪と揉めたあと、

アパートのベランダで、一人煙草を吹かしながら必ず自己嫌悪に陥る。



夜風に吹かれふわふわと踊る前髪をかき上げて、握り締めていた箱を覗く。

ラスト1本の煙草を確認すると、ソレに静かにライターで火を付けた。

「あー・・・情けねェ」

呟いた言葉は本人以外の耳には届かず、宙に舞う。




知ってるんだ。

おれに涙を見せないように、我慢してるってこと。

おれがいなくなると、吹雪が一人で泣いてるってことも。


その光景を浮かべると、

煙を思い切り吸い込んだ肺がきゅうっと締め付けられるようだ。


それでも、それを知ってて、おれは吹雪を抱きしめてやることも出来てない。

「ほんと・・・情けねェよな」

自虐的な笑みをこぼした後、サンジは吸った煙を一際大きく吐き出した。

ソレはカタチの定まらぬままふわふわと漂い、やがて空に同化していった。








どれもこれも言い訳にしか聞こえないが、吹雪の機嫌を損ねるソレは、

サンジにとっては本当に遊びの範囲のことで。

相手も、大体は理解のあるサンジの女友達だ。

有名なレストランで長い間ウェーターをするうちに、

顔立も良くフェミニストなサンジはあっという間に女性客の人気を獲得し、

もともと顔の広いこともあって、女性からの誘いを受けることは日常茶飯事だった。


誘われたら余程のことがない限りNOとは言えず、

それでも肉体関係は吹雪と付き合ってから1度も結んだことはない。

どんなに魅力的な女性でも、彼女たちにはサンジの心を繋ぎ止める術を持っていないのだ。



















「ちょっと!風桜さん!!」

「・・・・・はいっ!?」

「何度呼ばせるのよ!あなたに電話が来てるのよ!早くつないでちょうだい!」

「あっ、すみませ・・・はいっ、大変お待たせしました!」

慌てて受話器を取ると、自然と上司の痛い視線を避けて、早口で受け答えを済ます。


「はぁー」

受話器から離した手は、すっかり冷め切ってしまったコーヒーカップに伸びる――――が、

ガシャンっ

「きゃっ」

伸びた手がカップを倒してしまい、吹雪のまとめた資料がコーヒー色に染まっていく。

「なにやってるのよっまったく!」

苛立つ女上司の叱咤と同時に吹雪は立ち上がり自分のバックを弄ってハンカチを探す。

「ああもうっやだ・・・・っ」

今朝から小さなミスを連発し、それでも集中力は散る一方。

結局、サンジからの電話はまだない。


「あー、なにやってんスか、先輩」

すると、背後から呆れたような声が聞こえ、

振り向くと今年入社したばかりのロロノア ゾロが立っていた。

反射的に睨んでしまい、そんな睨みに少しも動じず、ゾロは黙ってハンカチを差し出す。


「え・・・」

「ないんなら使っていいっスよ。早くしないと、ソレやばいんじゃないっスか?」

「あ・・・、ごめっ、ありがと・・・」

もごもごとお礼を言いながら受け取ると

「あっ、やっぱいい。コーヒーだし染みになっちゃう・・・」

「別に。ソレ安物だし。使ったら捨てといてくれて構わないんで」

「でも・・・」

「おいロロノアー!この前のアレ、どーなったぁ?」

「あー、出来てますよ」

そう返事を返して、吹雪に視線を戻すと

返さなくていいっスから。

と一言告げ、踵を返して自分のデスクに向かっていった。















結局資料はまとめ直しになってしまったが、

有り難く使わせてもらったハンカチは、明日クリーニングに出そうと思う。




一通り作業が終わり、一息つきながら腕時計を覗けば、もう夜の10時を回っていた。


「先輩、今日の分終わったんスか?」

急な背後からの声に驚いて振り向くと、

「あれっ、ロロノアくん、まだ残ってたの?なに、残業?」

問いかけには答えず、ゾロは今思いついたかのように、

飲みに行きませんか?と一言、吹雪に向かって言った。


相変わらず、真っ直ぐに相手の瞳を見るやつだなぁ。

と、頭の隅で考えながら、

「じゃあ、行こっかな」

と、その視線を外しながら呟いた。




なんとなくだけれど、彼には下心とかそういうのが見受けられず、信用できる気がした。

そういう瞳をしていた。












「うまいっスね、ここの酒」

「でしょうっ?ここ私の1番のお気に入り!しかも安いのよ!種類だって豊富だし」

酒を飲むと、無愛想で仏頂面のゾロもよく笑い、よく喋ることが判明して、

自分に気を許してくれたことに、吹雪はなんだか嬉しさが芽生えた。

すでに今3軒目の飲み屋ですっかりできあがった吹雪は

自分の彼氏についての愚痴を、今日初めて一緒に飲んだゾロにベラベラと話していた。









「もーホント最低なヤツなのよ。私はあんたの何なのさーみたいな。

 ほんと、いつも思うんだよねぇ。言い訳がそもそも信じられないって感じで。

 それにサンジって・・・・あれぇ?ロロノアくんちゃんと聞いてる?寝てないよねー?」

起きてますかー?とゾロの顔を覗き込むと、

「先輩」

30分程、ずっと黙って話を聞いていたゾロが口を開いた。

「はいっ。なんですか?」

姿勢を正して会社に居るときのような返事をふざけながらすると、

ゾロの目が真っ直ぐに自分に注がれていた。


ドキリとする。

彼の目を見ると、あまりにも真っ直ぐで、汚れてなくて。

私の心の中を、見透かされているようで。



「・・・・」

黙って見つめ返すと、

「泣いてもいいんスよ」

と一言。





「え・・・やだぁ別に・・・・」

私は哀しいわけじゃないのよ。腹が立ってるだけ。

それにアイツのせいで泣くなんて勿体無いじゃない!



言おうとした言葉は空気を震わすことはなく、代わりに涙となって、ゾロに届いた。







真っ直ぐなゾロの視線は、吹雪から外され、

けれど、相変わらずただ黙って、吹雪の言葉にならない声を聞いていた。



















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あーやべぇ。後輩ゾロ萌え!敬語ゾロ萌えー!!

(※これはサンジ夢です。)