* 能にも似た飢え *













               「あ、ここ空いてる?」

               「あ、サンジさん。おはよ。どうぞどうぞ」

               「コニスちゃん・・・」

               「はまだ来てないわよ」

               きょろきょろ辺りを見回すサンジを横目で、コニスはあっさりと言ってのける。

               「はぁあ〜〜〜。今日も休みかなぁ」

               机にだらんと突っ伏しながらしょげるサンジ。



               
               はあの飲み会の日以来、もう2週間ほど大学には来ていない。

               あの、飲み会の日の帰り。

               サンジがちょっとした腹癒せで彼氏の前に顔を出し、その男にちょっとした挑発をした。

               だが、それからが学校に来なくなった。               

               送ったメールには「大丈夫だから」という言葉しか返って来ず、

               それが余計サンジの不安と罪悪感を掻き立てた。





               「やっぱ彼氏となんかあったんかなー」

               「あら、サンジくんには好都合じゃない」

               コニスの隣にいたナミが口を開いた。

               「なっ!好都合なんて・・・、えっ?」

               「なぁに、うろたえてんのよ。サンジくんの気持ちなんてみんな知ってるわよ?」

               「サンジさん、意外と分かりやすいものね」

               クスっと笑ながらコニスも頷く。

               「・・・・・・・マジっすか」

               「で、こんな時には、の心をあんたが慰めてあげなきゃ」

               「いや、でも、おれが原因かもだし」

               「人の恋、拗らせといて、なに今更怖気ついてんの」

               「ぅっわ、イタイ。今のイタイ。」

               「突っ走っちゃいなさいよ。

                サンジくんが一人の女の子にここまで振り回されてるの、初めて見るもの。

                これでも、あたしは応援してるのよ?頑張ってほしいの」

               「な、ナミさん・・・」

               ニッコリ笑うナミに、これでもかという程、愛情の眼差しを向け、

               サンジは勢いよく立ち上がった。


               「分かったよ、ナミさん!!

                ぅおおおおお!!待ってくれ!!ちゃん!!!」

               
               そしてサンジは教室のドアに向かって風のように走っていった。


               「・・・・ナミ、あなた面白がってない?」

               「あら、そんなことないわよ〜。それにしてもサンジくんって意外と単純ねぇ。」

               ニヤリと笑うナミの横で、コニスは苦笑を漏らした。













               
               「はぁー」

               「なんだ、お前ェ、やる気あんのか?」

               「あ、スイマセン」

               「まぁ、いいけどよ。おら、客来てんぞ。」

               「はい」               

               

               これで、何回目だ?

               「はぁー」

               気付けば溜息ばかり出やがる。

               バイト中だってのに、しかも忙しい昼時だってのに。

               ま、原因は分かってんだ。



               アイツからの連絡がない。


               まぁ、おれだって連絡してねェってのもあれだが。

               つか、なんてきりだしゃいいのか分かんねェんだ。

               酷ェことしたのはおれだし、おれだって、あれはヤバかったと思ってる。

               けど、謝って、その後なんて返されるのかが怖ェ。




               頭に浮かぶのは、笑顔よりもあの夜の泣き顔の方で。


               
               アイツを傷つけるなんて。

               何よりも誰よりも大事にしてェって思ってたのにな。

               おれなりに。

               








               覚悟、決めるか?




               

               このまま連絡一つもしねェんじゃ、本当に自然消滅し兼ねない。           
               
               おれは元からを手放す気なんかねェんだし。

               今日、バイトは早く切り上げよう。





               



















               「はぁ〜」

               これで何回目だろう。

               「はぁ〜〜」

               気付けば吐き出している、大きな溜息。


                今日も家で何もせずゴロゴロして過ごしてしまった。


               どうすることも出来ないでいるのに、携帯を手放せないでいる自分。

               


               あれから、何日経ったんだろう。

               ゾロからは連絡は来ない。

               私も、してない。

               
               どうしよう。

               自然消滅になっちゃうかもなぁ。



               そんなの、イヤなのに。

               イヤなのに・・・。




               ぎゅうっと携帯を握りしめた、その時。













               ピンポーン













               「っ!?」





               ゾ、


               「ゾロ!?うそ、あ、どうしようっ」

               手ぐしで前髪を() かしながら、バタバタと床に散らばっている雑誌を拾い上げる。

               

               心臓がバクバクする。

               ああ、早く出なきゃ。

               でも私こんな格好で、・・・上着どこいったっけ?

               あ、あったあった。

               ああっ、早く出なきゃ!!





               ドタバタしながらもドアまでたどり着き、ドアノブに触れようとした瞬間。




               でも、どんな顔して会えばいいんだろ・・・・。

               

               急に押し寄せる不安。


               ゾロは、どんな顔をしてドアの前に立っているのだろう?

               怒ってるだろうか?

               悔やんでるだろうか?

               それとも、笑って・・・・・・それは有り得ないか、いろんな意味で怖い。


               普通の、いつもの、仏頂面で、立っていてくれたら、いいなぁ。





               


               ゆっくりと、ノブを回す。








               初めに目に入ったのは、眩しいほどの・・・




               「ちゃん!!あの、おれ、ゴメン!!!」









               金髪だった。

















               
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                どのへんが「本能にも似た飢え」なんでしょう?

                お題に忠実じゃなくてホント申し訳ないです。

                計画上ではこの話、題名的に飢えに飢えたサンジさんが主人公を襲って・・・・

                ってなるはずだったのに、ってか流れ的にその方が盛り上がるのに(そうか?)(私は盛り上がるよ)
               
                なぜかサンジはギャグだし、もうどうしよう(汗)