耳に響くエンジン音。

容赦なく吹き付ける風はの髪をなびかせ、

制服を躊躇いもなくはためかせる。













* 登下校 - A - *














「しっかり掴まってろっ!転げ落ちても知らねェぞ!」

急に怒鳴られて、遠慮がちにゾロの腰に回された腕に、反射的にギュッと力がこもった。

ゾロが軽く笑うと、

「ちょっと連れて行きてェとこがあんだけどよっ」

と、唐突に言う。

真っ直ぐに家に送ってくれると思っていたは少し戸惑って口を開くと、

「え、でも・・・」

に拒否権はねェ」

あっさりと拒否権を取り上げられてしまった。

「・・・・・・・・・」

まだ慣れないという響きに気恥ずかしさを覚えつつも、胸には不安が広がっていた。



どこに連れてかれるのだろうか。

ま、まさか・・・・・・っ!!

いやいや、そんないきなり・・・いくら頭が緑だからって・・・・

で、でもでも・・・っ!!





急に黙り込んだを横目で見て、ゾロを安心しろとでもいう風に

「時間はそんなに取らせねぇから」

と言った。

「行き先は・・・・」

「着いた」

「えっ、早っ!」

そこを冷静に見渡せば、小高い丘の上で、

目の前には、子供の遊具のような古い樹の建物が建っていて。

壁がなく、全部で3階もあり、1階ごとに木で出来たかわいらしい椅子とテーブルが並んでいた。


ゾロはスタスタと階段を上り始め、もヘルメットを外して慌てて後に続いた。

上まで上りきると、ゾロは手すりに肘を付いてを手招きする。

「ゾロ、ここ・・・・」

「見てみ」

ゾロの顎で指し示す方向を見ると、は静かに息を呑んだ。

目の前に広がる、真っ赤な夕焼けに、海が照らされキラキラと輝いている。

「うっわぁー・・・・・」

今までに見たことのない程の、大きな夕焼けに言葉も忘れる。

「すご・・・・」

ポロリと零れた言葉は、ゾロの耳に届き。

「だろ?」

と、子供のような笑顔を見せてくれた。





ゾロはこれを、私に見せたいと思ってくれてたんだ・・・・。

こういうのって、凄く嬉しい。

どんなものよりも、嬉しいことかもしれない。




「ゾロ・・・・」

「ん?」

「ありがと」

夕日に照らされ、それとも単に自分の言葉に照れたのか、

の頬は赤く染まり、顔には満面の笑顔。

ゾロは一瞬見入り、すぐに目を逸らすと、おう と小さく頷いた。
















「あ、ゾロ!ここまででいいっ」

速度を緩めながらなんでと聞き返すゾロに、

「近所の人に見られたら恥ずかしいから!」

と言って慌てて降りるに少し不満顔のゾロ。

「すぐそこだから心配しないで」

と宥めると、ゾロは渋々ながら了解を出す。

「じゃあ明日学校でねっ!」

軽く手を振って、ゾロを見送る、と、ゾロはエンジンをふかしたまま一時停止して。

「あの場所・・・」

「え?」

「今日行ったとこ、いつも何かイヤになったりむしゃくしゃした時によく行ってた場所でよ」

静かに語るゾロを身動きせず見詰めて。

「だから、も何か・・・・辛くなった時は、おれに言えな。

 またあの夕日、見せてやっからよ」

の返事を待たず、それだけ言うとゾロは走り出した。

彼の、ぶっきらぼうな言葉が、妙に嬉しくて自然と笑みが零れる。

人は見かけじゃないって、ホントだ。























「っっぁああぁああーっ!!!」

他人の目を気にしていたら到底出せないであろう程の叫び声。

先ほどの幸せの余韻に浸る間もなく、を取り巻く焦りと後悔の渦。


ルフィのことを忘れてたぁあっ!!!


乱暴に鞄から携帯を取り出して見れば、ルフィから着信が何度も来ていた。

すぐにルフィに電話しても、一向に繋がる気配なし。


「え〜〜、どうしよ・・・・怒ってんのかなぁ」

頭を掻いて、もう一度掛け直してみる。

繋がったかと思えばそれは留守番電話サービスで。

すぐに切ると、はルフィの家に走り出した。



ごめんごめんごめんっ!!



頭の中で何度も謝ってはみるが、それは本人に届くはずもなく不安も晴れない。

元から家は近くて、2、3分もすればすぐに着いてしまう。

少し深呼吸をして玄関のチャイムを鳴らせば、すぐにおばさんが出てきて。

だと分かるとニッコリと優しく笑った後、

「あら、ごめんなさいねぇ。ルフィまだ帰ってきてないのよ」

と申し訳なさそうに言った。

「え・・・・・っ!?」




もしかして・・・・・・ルフィっ!!






それを聞くや否や、は踵を返して再び走り出す。

そんなことはないだろうとは思いながらも、の足は夜の学校に向かっていた。















学校に着くと、息も絶え絶えで、校門に向かう。

「ルフィっ!?」

名前を呼んでみても、返事はおろか、人の気配さえなかった。


自分の息しか聞こえず、は一人しゃがみ込む。

「・・・・ル、フィ・・・・」

当たり前だ。

いくらルフィでも待ってるなんて筈がない。

空を見上げて、暫く座ったままで息を整えて、

もう帰ろうと立ち上がったとき・・・・。


っ!!」


目を見開いて声のした方を振り向くと、電灯の下にルフィが、いた。

「っ!!ごめ、ルフィ!私今日忘れててっ」

「そんなとこに居たのかぁ!」

の言葉を聞かず、座り込んでしまったルフィには駈け寄る。

近くで見ると、ルフィは以上に汗を掻いていて、息もかなり上がっていた。

「おれ、がいくら待っても来ねェから、てっきり変なヤツに連れてかれたかと思ったぞ〜」

「そんな訳・・・・・」

「だって携帯も出ねェしよぉ」

そう言って拗ねるように唇を尖らすルフィ。

「でも、そうじゃなくて良かった!」

すぐに笑顔に変わって自分を見るルフィを見詰め、は言葉が詰まる。

胸が、今までにないほど締め付けられる。

「る・・・・」

涙を必死に堪え、ゴメン と一言。

それをルフィは笑顔で許してくれる。

結局零れた涙は隠しきれず、の滑らかな頬を伝ってルフィに届いた。





締め付ける、その感情が何なのか、はまだ知らない。















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 こんないい子(もとい、おばかっちょい)いねぇーーーーって!!(ルフィ、ウソップ以外)