おれのアパートからのアパートまで約4キロ。

               軽く汗を掻くには丁度いいだろう。



               少し、ペースを上げる。




               








              * 様な男 *



















               車内は飲み屋と変わらず騒がしくて、

               けどは助手席でしっかりとサンジの運転を見ている。



               ここで事故られちゃ堪んないもんね。
               
               後部座席も運転手も酔っ払い。

               ここは私だけでもしっかりとしなきゃ。








               「そんなにジッと見られると集中できなんだけどな〜」

               顔は前を向いたまま、目だけをに向けて、

               おちゃらけた様子で口を開くサンジ。

               「サンジはそういうの慣れてるでしょ」

               それを冷静に返す


               「ちゃんに見つめられるのは他の女性のとはまた違うんだよ」

               「・・・・。私はサンジじゃなくてサンジくんの運転を見てるの!」

               「だいじょーぶ!おれ免許はちゃんと持ってるから!」

               「それ、当たり前だから!!」

               「はは。そうっすよね〜」

               「しっかりしてくれよ、酔っ払い!」

               「ちょっとちょっとー。そこで漫才やんないでくれるー?」

               「私は心配なの!!っあ、サンジ!ここ右折ねっ」

               「OK!」

               「ああもう!しっかり前見て!!」

               「なんかあんたたち夫婦みたいね〜」

               「そんな〜。お似合いだなんて〜」



               「・・・・」






               ・・・・なんか頭痛い。
               

               思わずはこめかみを押さえる。






               「っあ!!サンジ!!ストップストップ!!」
               
               「ぅおっ?」

               急ブレーキをかけ、後頭部席の二人が大袈裟に声を上げる。

               「わり、過ぎちまった?」

               「あ、大丈夫大丈夫。ほんのちょっとだから。私のアパートすぐそこだもん」

               「あ、じゃあ戻」

               「いい、いい。大丈夫。それよりこの二人お願いね、サンジ。

                コニスたちも運転中はサンジにあんま話しかけちゃダメだよ!」

               「了解!」

               「ん〜。ってお母さんみたいで好きぃ〜」

               「はいはい。」               

               ふふっと、笑ながら、は助手席のドアを開けた。               

               「じゃあね。今日はありがとうね、サン・・・」





               と、そのとき―――・・・








               

               「っ!」





               




               この声・・・






               「えっ?ゾロっ!?」


               3メートル程後方に、見間違えるはずもない、

               ゾロの姿。

               マラソンをしていたのか少し汗ばんだ顔で、ゾロはそこにいた。
               



               「じゃ、じゃあね!みんなっ」
               
               とりあえず、サンジに送ってもらったってことがバレるのは良くない。

               非常に良くないっ!!




               ああもう、それなのに!!

               何でサンジは車を出さないの!?

               

               ゾロのところに行きかけて、は車のほうに振り向き、手を払う動作をした。
               
               と、それと同時に、サンジが助手席の窓から顔を出した。

               

               「サンジっ!!」

               と叫びそうになって思わず口を噤む。

               もしかしたら暗くてよく見えないかもしれないと思ったのだ。



               何気にサンジは華奢だし、髪もショートの女の子に見えなくもない!!

               この暗闇なら!!

              
               

               「おい、そこの彼氏さん。あんたのかわいいお姫様は、おれが無事にお届けしたぜ。

                ありがたく思えよ」
               
               「っ!!!」

               「あ?誰だてめェ」

               「ちょっ、サンジっ。」               

               「・・・サンジだぁ?」
                              


               しまった!!と口を噤んだところで、それはもう後の祭りだ。
               




               「てめェがサンジか?」

               「ちょっ、ゾロ!サンジ酔ってるから・・・」

               「関係ねェ」

               「おっ、やるってか?彼氏さん」

               「サンジも!いい加減にして!!コニスたち送るんでしょ!?」

               明らかに何か起こると期待して野次馬丸出しの二人をチラッと見て、

               「そうだった。おれにはまだお届けしなきゃならねェレディたちがいたんだ。」

               と、おどけた調子で言う。

               「忘れちゃダメでしょ!それじゃ、バイバイ!」

               その口ぶりに、軽く苛立ちながら口早にそう言うと、はゾロの手を掴んだ。

               早くこの場を去ろうとするかのように強く引っ張る。

               けどゾロは、1歩も動こうとしない。

               
               そしてサンジは最後に、

               「ああ、それと、・・・ちゃん。また飲みに行こうな。」

               
               「っ・・・!」


               

               返事なんて、・・・出来るわけない。








               遠ざかる車のエンジン音。

               もうそれ以外は何も聞こえず、

               「・・・・・」

               ゾロは黙ったまま、遠ざかる車を睨んでいる。

               いつの間にか、掴んでいたはずのの小さな手が、反対にゾロに掴まれていた。



               「・・・・・・」

               「・・・・・・」               

               
               自分を落ち着かせるように、ふぅ、と静かに息を吐いて。

               「ゾ・・・」               

               が口を開いた、その時、急にゾロが凄い勢いでの腕を引っ張る。

               そして乱暴に壁に押し付けた。               

               「っ!?」

               驚きながらも痛みに顔を歪めながら、

               「っちょ、なに・・・っ」

               顔を上げてゾロを見た。

               そしての顔は強張る。

               

               ゾロは、もうが知ってるあのゾロではなく、

               その冷たく鋭い眼光には怒りしか見て取れなかった。


               恐怖に自然と息が上がる。
               
               それでも、ゾロから目を逸らすことは出来なかった。               





               「おい」

               「っ!」

               今にも身体が震え出しそうになる。

               「何であのヤロウがいる?」

               普段とは一段と低い声で、でもの頭の中に響き渡る声で、

               ゾロは静かに言う。

               だが、滲み出る怒りは隠せていない。


               「アイツには、近づくなって言ったよな?」

               「・・・・・」

               「何でおれの言う通りにしねェ?」

               「・・・・・っ」

               「しかも酔ってる男の車に乗るなんてよ、無用心にも程があんじゃねェのか?」

               「っそれは・・・、だって他の子もいたし・・・

                それにサンジは、そんな人じゃ・・・」


               ゴッ!!

               鈍い音が壁を伝う。

               「っ!!」

               思わずは息を呑んだ。


               「何でお前ェがそんなこと言い切れんだよ?」

               ゾロの拳がの顔の真横にあり、血が壁を伝っている。

               「いつからそんな親密な仲になった?ぁあ?」

               「・・・・ゾ、ロ・・・血が・・・っ」

               「今そんなこと聞いてねェだろ?」

               「だって、こんなっ」





               さっきまでおれに怯えてたヤツが、

               こんな怪我くれぇで、すぐ人の心配しやがる。



               なんでこんなに必死なんだよ。

               なんでお前は・・・っ




               溢れ出る愛しさと、それに比例して感じる嫉妬。               

               
                              









               「ちょっと、とにかくうち行こ。」

               そう言って、ゾロの腕を掴もうとしたの手を、

               逆にゾロの手が拘束する。

               そして、ゾロはいきなりの唇を塞いだ。


               「ふ、ん・・・っ!?」


               そんな場合ではないと言うように、

               は首を左右に振ってゾロから逃げようとする。


               それでも逃れられない。

               寧ろキスは深くなっていくばかりだ。



               
               「ふぅっ、んん・・・っ!!」



               ゾロの舌はの口内を犯していく。

               躊躇いもなく、の抵抗もないかのように行為を続けていく。

               

                              
               やっと開放したかと思うと、ゾロはの首筋に舌を這わした。

               「っはぁ、やぁ・・・ゾロっ」

               ゾロの手は服の上からの身体を弄るように動く。

               「っダメ!やだっ、止めてゾロ!!お願い・・・」


               こんなところで、誰かが通ったら、声が聞かれたら・・・


               それより何よりも・・・





               




               「・・・・泣いたって、止める気はねェぞ」



               「・・・・ぅ、・・・やだぁっ」




               こんな気持ちのままなんて・・・。

               

               

               「っも、ホントに・・・止めてっ!!」

               「止めねェ」

               「やだぁっ。ゾロぉ!」

               「五月蝿ェ」

               「っふ、・・・ぁっ、ひど・・・」

               は抵抗をやめない。

               「・・・ひどぃ、・・・ゾロぉ」

               「ぁあ?」

               「こ・・なの、ゾロじゃない」

               ゾロの動きが、一瞬止まる。

               「私の好きな、ゾロじゃない・・・っ。」
               
               そう言うと、は敵わないと思いながらも

               ゾロを、おもいっきり突き飛ばした。

               予想外にも、ゾロはそのの力を受け、そのまま地面に尻をつく。

               
               「あ・・・」

               ゾロはそのまま顔を上げる気配も起き上がる気配もない。



               「・・・・っ」



               嗚咽が漏れないように口を押さえ、


               はゾロから遠ざかって行った。

               










               

               ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

                ゾロは不器用ですから。

                許してやって下さい。(そういう問題かしら;