謝りたいとか、そういうことじゃなくて、


に会いたい。



ただそれだけだ。















* 「でもいいんだろ」 *
















「じゃあ、お先失礼します。明日は今日の分までやってくんで」

「あいよっ」

「お疲れぇ〜」

「お疲れ様でしたっ」


店の裏門から出ると、ゾロはもうすっかり暗くなった空を見上げ、

駐輪所に急いだ。


























「さ、サンジ・・・?」

「ほんっとーにゴメン!」

「ちょっと、なに、」

「おれの所為なんだろっ?おれの所為でちゃんがっ」

「あ〜〜〜、ちょっと声大きいって!もう、中入ってよ。とりあえず!」

お隣さんは噂好きのおばさんだったのを思い出し、は慌ててサンジを部屋に押し込んだ。





「もう!なんなのよ!急に来て!」

ゾロだと思ったのに!! 言いかけて、息を呑む。




やっぱり私は、こんなにも、ゾロが会いに来てくれることを望んで・・・。





あの夜から随分経って、乾いた頬に、また涙が伝う。

それをサンジには悟られぬよう、冷蔵庫に向かう。


「な、何か飲む?」

語尾が微かに震えた。

「・・・・・ちゃん」

「あ、テキトーに座っちゃって。雑誌とか寄せていいから」

ちゃん」

「なに、っあ!」


急に身体が包まれて、はコップを落としそうになる。


「ちょ、どうしたのよっ?サンジっ!!」


ふざけてるの?と聞けば、無言で抱きしめる腕に力が(こも) る。

腕を解こうにも、サンジはビクともしなくて。






「もうっ!!サンジ!!」

半ば叫びにも近い大声で言うと、急に身体が開放された。

は振り向いて どういうつもり!? と言おうとしたが、

その言葉は空気を伝うことはなく、そのまま飲み込まれてしまった。


振り返って見たサンジの顔は、なぜだかすごく辛そうで、

それでも無理して笑ってるように見えた。


ちゃん、ゴメン。でも」

「悪かったって思ってるなら、もう放っといてよ・・・」






なんか、分かった。

ヤな感じがした。

サンジはもしかして・・・・






「放っとけねェ。放っとけるかよ!だっておれは」

「サンジ!!」




言って欲しくない。

だって、壊れてしまうから。

なにかが・・・関係が・・・。










「好きなんだ。ちゃんが」




「・・・・っ!」









「・・・・だから、あのとき彼氏に、おれ嫉妬しちまって、ぞれで」



「・・・・・・・そうだよ!!サンジの所為で、・・・サンジが出てきたから!!

 だからあたしたち、こんな・・・っ」








サンジの所為じゃない。

全てを押し付けて「サンジの所為」なんて、言っちゃいけない。



だけど、止まらなかった。



この2週間の不安、憤り、不満、寂しさ、


全部が、全部が今溢れ出てきて、抑えられなくて。








どうして、今告白なんかするの?

あたしが弱ってたの、分かってたじゃない。


(すが) ってしまうかもしれないって?

だから?










ちゃん・・・」

「ズルイよ・・・っ。サンジ、あたしそこまで」

ちゃん」

「そこまで弱くないっ!」


サンジの手が、の頭に回され、そのままポスッと肩に顔を埋めさせた。

その所為での声はくぐもって、涙はサンジの青いシャツに吸い込まれていった。



「・・・ゴメン。ほんとゴメン」

「・・・ずるい・・ぅ」



ぎゅうって力強く抱きしめられて、・・・・多分その時だ。





魔が差した と言うのだろうか?




彼に、縋ってしまった。















ゾロとは違う、男の手。


ゾロより細くて、綺麗で、



香水の匂いに混じって、煙草の匂いが微かに鼻を掠める。












「・・・・サンジ・・・っ」














の細い腕が、サンジの背中に回される。



















何時の間にか外は暗くなっていて、電気を点けなければお互いの顔が見えにくいくらいだ。







サンジはずっとを胸に収めたままで。

泣き止むまでそうしてくれるつもりなのだろう。



「・・・サンジ、ゴメン。もう大丈夫だから」

背中に回した腕を緩め、サンジを見上げた。

その時、不意にサンジの顔が近づき、唇が軽く、触れる。





「・・・・・・・」

「・・・・・・・」











一瞬離れて、そして今度は深く―――・・・と、その時、

















ピンポーン


















「あっ」







鳴り響いた、チャイム。
















一瞬、背筋が凍った。









ゾ、


ゾロ・・・・・・?











まさか、でも・・・























「おい、居るんだろ?」












「!!」










今更ながらに、今自分がしていたことを後悔する。



どうしよう、どうしよう。


ああ、もう・・・!!
















「入るぞ?」















ガチャリと、鍵の掛かっていないドアのノブが回された。










「真っ暗じゃねェか、電気ぐらいつけ・・・」








ゾロには、見えた筈だ。


人影が二人、見えた筈だ。










・・・・、ソイツ、誰だ?」



パチン とゾロが電気のスイッチを点けた。





出す言葉も見つからない。


もう、どうしようもない。











































その後は、本当に大変だった。




本当にサンジが殺されちゃうかと思った。

必死にサンジを庇ったことは覚えてる。



だって、ゾロと喧嘩なんて、勝てっこないでしょ?

それがゾロの怒りを煽ることになるのは、十分わかっていたけど、

それぐらいしか出来なかった。


























『お前、結局誰でも良かったんだろ?』






傍にいてくれるやつだったら、誰でも。



























ゾロの口から出たその言葉を、私は一生忘れないと思う。




















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 泥沼ってやつですね!